市民の健康ガイド

2017年グラフ旭川11月号

「ちょっと距離をおきたいの

 

2016年グラフ旭川4月号

370方式の視力検査」

 

2015年グラフ旭川10月号

「ドライな人 増えてます」

 

2015年グラフ旭川4月号

「肝心なところが見えなくなる病気」

 

2014年グラフ旭川7月号

「眼科の上手なかかり方」

 

2013年グラフ旭川8月号

「白内障の手術は1回しかできないの?」

 

2012年グラフ旭川6月号

「検査の数だけ抱きしめて」

 

2011年グラフ旭川9月号

「彼女が診察室に入ったら」

 

2011年グラフ旭川6月号

「私を眼科に連れてって」

 

2009年グラフ旭川2月号

17分の1

 

2008年グラフ旭川2月号

「私の目が黒いうちは

 

2007年グラフ旭川2月号

「私の目の中の

 

2006年グラフ旭川2月号

「目に入れても痛くない話」

 

2005年グラフ旭川5月号

「甘くない目の話」

 

2004年グラフ旭川5月号

「緑内障」

 

2003年グラフ旭川10月号

「白内障」


2017年グラフ旭川11月号市民の健康ガイド

「ちょっと距離をおきたいの

 

 『ちょっと距離をおきたいの』なんて言われたら、背筋に寒~いものを感じちゃいますよね。といった話ではなく、目の前にあるものを見る時に、ちょっと距離を離したくなる話をしようと思います。

 「近くのものを見る時に、ちょっと距離を離したくなった」そんな変化は老眼の始まりかもしれません。老眼は誰もが避けて通ることができない、目の加齢に伴う変化です。40歳を過ぎたころから、少しずつ老眼の症状が出てきます。他の目の病気も出てくる可能性のある年代ですので、おかしいなと思ったら、眼科を受診してください。

 

水晶体の弾力が落ちると

 目の中に水晶体というカメラのレンズに相当する組織があります。カメラでは、レンズが前後に動くことによって遠くや近くにピントを合わせてくれますが、私たちの目は、水晶体がその厚みを変えることによって遠くのものや近くのものにピントを合わせることができます。しかし年齢とともに水晶体の弾力性がだんだんと弱くなるために、厚みを変えることができなくなってきます。そのために、近くのものにピントが合わせにくくなってくるのが、老眼です。

 

こんな症状が起きたら

 もちろん、ある日突然、水晶体が硬くなってしまうわけではありませんので、 だんだんと「アレッおかしいな」と思うことが 増えてきます。

「おかしいな」と思うこととして、

本を読む時、腕を伸ばしたほうが見やすい。

少し暗くなると、本が読みにくくなる。

本を読んでいて、ヒョイと目をあげるとぼんやりと見えていて、 ジッと見ていると、だんだんはっきりしてくる。

◯値札の金額を見間違えることがある。

◯パソコン画面を見ていると、すぐ目が疲れてしまう。

◯針に糸を通すなど、細かい作業が苦手になった。

こんな症状が起きてきます。

 

老眼鏡か遠近両用眼鏡を

 少し暗くなると本が読みにくくなるなど、暗くなると老眼が悪化したように感じるのは、どうしてでしょうか。暗い所ではカメラの絞りにあたる虹彩が光をより多く取り入れようと するために、瞳(瞳孔)が広がります。 瞳が広がると焦点深度が浅くなるので、老眼が悪化したように感じる のです。 本を読んだりする時は、手元を明るくして読むようにしましょう。手元が見えにくい状況が出て来たら、 そろそろ近用鏡(いわゆる老眼鏡)のお世話にならなければいけません。 手元が見えにくいのに無理をしていると、 目の疲れ、肩凝り、頭痛などの症状を引き起こすこともあるのです。

 もともと近視で眼鏡をかけている人は、遠近両用眼鏡に替えたとしても、 今は多焦点レンズの良いものが出ていますので、境目がなく ほかの人からは遠近両用眼鏡とわかりませんから、 スムーズに移行することができると思います。

 もともと遠視があり遠くが良く見えていた人は、近用鏡に抵抗があるようです。 遠視の方は、遠くを見る時にも、水晶体が若干厚くなってピンと合わせを する必要があるため、近くを見る時にはさらなる水晶体のピント合わせが 要求されます。 そのため、遠視の方は早いうちに手元が見えにくいという状況になります。 遠くの視力が良好でこれまで眼鏡をかけていなかったという人は 「目に自信がある」人が多く、近くを見る時だけに眼鏡を掛けると、 人より老けて見られるので嫌だという気持ちが強いようです。 でも、日常生活で近くを見る機会は非常に多く、無理をせず近用鏡を使うことによって、 「疲れがとれて楽になった」と感じることがあります。

 

遠近両用コンタクトレンズ

 コンタクトレンズが普及してから、年数も経過していますので、コンタクトレンズユーザーの中にも、老眼年齢に達している方々が増えてきています。そのニーズに応えるように遠近両用のコンタクトレンズが開発され、装用者が増えつつあります。遠近両用コンタクトレンズにも、ハードとソフトタイプの2種類のレンズがあります。遠近両用コンタクトレンズは、1枚のレンズの中に 遠くをよく見るための遠用部分と 近くをよく見るための近用部分が組み込まれています。それまで、ハードレンズを使っていた人は、もちろんハードの 遠近両用レンズがお勧めです。ソフトレンズを長期間使ってきた人の中には、 角膜内皮細胞が大きくなって、その数が減ってしまっている人も いますので、詳しい検査のうえ、使用可能か相談が必要な場合もあります。

 ハードレンズの遠近両用は、レンズの中央部分に遠用部分、その周りに近用部分があります。近くを見る時は視線が下を向きますので、相対的にレンズが若干上がることによって、レンズの中心をはずれた近用部分を通して見ることになります。この方式を交代視型といいます。遠近両用眼鏡と同じような仕組みになります。

 ソフトレンズの遠近両用は、同時視型といって、遠くと近く(場合によっては中間部分も)にピントがあう部分がレンズに組み込まれています。遠くと近くの両方にピントがあっているのですが、そのうちの注目している部分を脳が認識することになります。バックネット裏から野球を観戦している時に、ピッチャーに注目している時にはバックネットは気にならないし、バックネットに注目している時にはピッチャーがよく見えないといった感じです。

 現在、乱視用のソフトレンズを使用している方は、乱視の度数によっては、遠近両用ソフトレンズではスッキリ見えない場合があります。

 遠近両用コンタクトレンズにご興味のある方は、ぜひお近くの眼科専門医でご相談ください。

 

まずは眼科で検診を

 老眼かなと思ったら自己判断で済ませずに、眼科の検診を受けてください。眼科ではきちんと検査したうえで、老眼による視力低下であるとの診断をします。自分では老眼だろうと思っても、他の病気による視力低下が見つかることもあります。検査は怖くありませんので、一度お近くの眼科専門医を受診してくださいね。


2016年グラフ旭川4月号市民の健康ガイド

370方式の視力検査」

 

 以前の話になりますが、人気テレビ番組「踊る!さんま御殿!!」で「世代間ギャップを痛感した時」というテーマが取り上げられ、40代の上司が、「子どもの時、学校健診の視力検査で0.2だった」という話をしたところ、それを聞いた20代の後輩に「私はCでした」と言われ、「??」だったということが紹介されていました。学校健診の視力結果は、世代間ギャップになっているのですね。

 

眼科学校健診

 昭和33年に学校保健法が公布され、その後何度か改正されながら、現在に至っています。眼科に関する定期健康診断は「視力検査」「眼の疾病および異常の有無」の2項目について行なうことになっています。このうち視力検査は、眼科学校医自らが行なう眼科健診に先立って通常実施されており、保健調査とともに眼科健診の予診的検査として位置づけられています。したがって、眼科健診では「眼の疾病および異常の有無」のほか、保健調査や視力検査の結果にも注意を払いながら、必要に応じて積極的に児童生徒へ助言や指導を行なうことになります。

 

3・70方式とは

 学校保健法施行規則の一部が改正され、平成441日から視力検査は、「1.0」「0.7」「0.3」の3指標で判定してよいことになりました。視力の検査結果が1.0以上であるときは(A)、1.0未満0.7以上であるときは(B)、0.7未満0.3以上であるときは(C)、0.3未満であるときは(D)、と記入してもよいことになりました。

 

3・70方式採用の理由

 3つの指標のみで視力検査を行なうことになった理由は、次の5つが挙げられます。

1. 学校の視力検査の目的は、黒板の字がきちんと見えているか、学業にさしつかえないか、眼科学校医の診断・指導が必要かどうかを判断するために行なわれます。判断の基準としては

  視力0.3=教室の最前列でもこれ以下の視力では黒板の字が見えにくい

  視力0.7=教室のどこからでも黒板の字が一応見える最低視力

  視力1.0=一応健常視力

  が用いられます。

2.  370方式は授業にさしつかえないかをみる目的に適しており、指導も行ないやすい。

3. 視力測定が能率よく行なえる。

4. 視力の細かい変動に子どもたちがこだわらなくなる。

5. 普通免許の視力基準も片目0.3以上、両目で0.7以上となっているように、社会的にも日本では0.30.7が重視されています。

子どもの視力の揺らぎ

 学童の視力は変動が大きく、いつも一定した値を得ることが難しいと言えます。一度の視力検査の結果が悪かったとしても、その日の体調、目の疲れ具合などによって、視力は変動します。特に学校検診の時の、みんなが一列に並んで騒がしいような中で検査した場合には、内気な子は視力が悪く出ることもあります。また、少し目を細めただけで視力はすごく上がります。視力の良い子どもの視力は安定していることが多いのですが、視力低下が始まった時期の子どもの視力は特に揺らぎがみられます。学校現場では条件の違いもあり、0.1きざみで細かく測ることはあまり意味がありません。学校検診の結果のみで一喜一憂せずに、視力低下を指摘された場合は、眼科での再検査をお勧めします。

 

眼の疾病および異常の有無

 眼科健診では、保健調査や視力検査の結果をふまえて以下の項目をチェックしています。

1. 眼位のチェック:カバーテスト、カバーアンカバーテスト、交代カバーテストにより、斜位の有無、斜視の有無ならびに種類を検討。

2. 眼瞼のチェック:腫脹の有無(浮腫・炎症の鑑別)、変色の有無をチェック。また、内反・外反の有無や睫毛乱生の有無をチェック。

3. 眼瞼結膜・球結膜のチェック:充血・浮腫・濾胞の有無ならびに異物・眼脂の有無をチェック。

4. 角膜のチェック:角膜表面の混濁・傷・異物の有無のチェック。

5. 瞳孔に光を当て対光反応及び瞳孔径の確認、水晶体混濁の有無をチェック。

 

色覚検査

 学校保健法施行規則の一部改正により、平成15年度からそれまで小学4年の児童全員に実施されていた色覚検査が健康診断の必須項目から削除されました。そのため現在、中高生の多くは色覚検査を受けることなく進学・就職と向き合っており、色覚に係る問題が急増しました。そのため平成26年に文部科学省から通知がなされ、色覚検査は、児童生徒や保護者の事前の同意を得て個別に検査、指導を行なうことが再確認されています。児童生徒が自身の色覚を知らないまま不利益を受けることのないよう、保健調査に色覚に関する項目を新たに追加され、保護者への周知が図られるように改善されています。

 

「要再検査」を指摘されたら

 「要視力再検査」の用紙をもらったら、一度眼科での検査をお勧めします。学校健診では、視力低下の原因が、近視か遠視か乱視か病気によるものかはわかりません。また、眼鏡が必要かどうかもわかりません。仮性近視であれば、点眼治療で視力が回復する可能性があります。

 「眼疾病の受診勧告」をもらった場合も、眼科を受診してください。学校健診の際には行なえない精密検査で、治療が必要な状態かどうかなど、より詳しい説明をさせていただきます。


2015年グラフ旭川10月号市民の健康ガイド

「ドライな人 増えてます」

 

 ドライアイ患者は、およそ800万人と言われています。初期症状はとてもあいまいで、何となく目が疲れやすいという感じで、自分では気づきにくいものです。気になる方は、ドライアイの検査をお勧めします。

 

無意識に出る涙は大切
 涙は上まぶたの外側にある涙腺(るいせん)で作られます。涙というと、悲しい時に出る涙を思い浮かべますが、 目にゴミが入った時やタマネギをきざんだ時にもたくさん出ますし、 アクビをしても出ます。それ以外に重要な涙は、意外にも出ていることを意識させずに出ている涙なのです。この涙は、1日分溜めたとしても0.61ml ですから、1年分でも220365ml 。 コーラの細い缶から太い缶くらいにしか溜まらないことになります。この涙を基礎分泌といいます。

 

関係する3つの神経

 涙の分泌を刺激する神経は、角膜の知覚を司る三叉神経、 自律神経である副交感神経と交感神経の3種です。目にゴミが入った時やタマネギをきざんだ時などの反射性分泌は三叉神経、 悲しい時などの感情的な涙の分泌は副交感神経、 基礎分泌には交感神経が作用しています。

 

涙の三層構造

 目の表面にある涙の大部分は涙腺から分泌される水分ですが、 実はそれだけではありません。水分の蒸発を防ぐ油分や、 水分を保持する働きのあるムチンというネバネバした物質が層となり表面を覆っています。この水分が減ったり、油分の減少で水分が蒸発しやすくなったり、 ムチンが少ないために水分が保持できなくなるなど3つの成分のバランスが崩れると、ドライアイの症状が出ると考えられています。

 

多彩な症状

 ドライアイは涙の量の減少や涙の質の変化で、目の表面の角膜や結膜に 障害が起きた状態のことです。目の表面の乾きによる症状は多彩で、 疲れる 、重い 、目がショボショボ・ゴロゴロする 、充血する、 痒い、 痛い、視力が下がった、 まぶしい、 目やにがでるなど、他の病気でも見られる症状が目白押しです。そこで視力検査など眼科一般検査をひと通り行い、ドライアイが疑われた場合には涙の検査になります。

 

微細な傷は染色で

 細隙灯顕微鏡検査で涙不足で目の表面に傷がついていないかを調べます。もちろん、そのまま顕微鏡で観察することもできますが、 微細な傷は色素で染色することによって、わかることがあります。フルオレセインという色素をつけて、コバルトブルーフィルターを通した 光で照らすと、傷ついた部分が色素に染まって見えます。また、この時に少し瞬きを我慢してもらい、 涙の膜の安定性を調べる検査も行います。次に涙の量を測るシルマーテストと呼ばれている検査を行います。 細長い濾紙を下まぶたに挟んで、5分間でどれくらい濡れるかで涙の分泌量を測定します。5分後に5ミリメートル以下だとドライアイと診断されます。

治療方法は2つ

1.点眼薬で目を潤す。

不足している涙の替わりに、人工涙液を点眼して直接目の表面を潤すのが、ドライアイの基本的な治療法です。人工涙液の点眼液は、頻繁に点眼していただきます。保水効果のあるヒアルロン酸の点眼薬を処方することもあります。水分とムチンの分泌を促す「ジクアホソルナトリウム」という点眼薬もドライアイに有効です。また、点眼薬ではありませんが、朝起きた時の目の表面の状態を良好に保つために、寝る前につけてもらう眼軟膏を処方することもあります。

 

2.涙点プラグ

少ない涙を有効に使う目的で、涙点プラグを入れる方法もあります。 これは涙点を塞ぐことで、少ない涙を目の表面に 長く留まるようにする方法です。 顕微鏡を使って、目頭の涙点に小さなプラグを差し込むというものですが、 痛みもなく短時間でできる処置です。コラーゲンを使用した液状の涙点プラグも使えるようになりました。

 

意識してまばたきを

 日常生活の工夫で 症状が楽になることもあり、その一つがまばたきです。 まばたきをするたびに目の表面に涙が送り込まれます。 普段は1分間に20~30回のまばたきを繰り返していますが、 コンピュータ画面を凝視している時や、集中して小さな文字の書類を 見ているときには、普段の4分の1にまで低下していると言われています。仕事中などは、意識してまばたきの回数を増やすことも 目の表面のリフレッシュになると思います。また、部屋の空気は乾燥 しがちですので、加湿を心がけ、温かいタオルで目を温めるのも 良い方法と考えられます。

 ドライアイかな?と思う方は、ぜひお近くの眼科を受診してください。


2015年グラフ旭川4月号市民の健康ガイド

「肝心なところが見えなくなる病気」

 

「肝心なものは目には見えないんだよ」作家のサン=テグジュペリは「星の王子さま」の中で、私たちに大切なものは何かを教えてくれました。今回は肝心なものは目には見えない、といった メルヘンチックな話ではなく、 「見ようとするところが、見えづらくなる」加齢黄斑変性のお話をー。

網膜の中心にある黄斑

 目の奥には網膜と呼ばれる神経の膜があり、カメラに例えると フィルムにあたります。 網膜はフィルムと違って場所によって感度に差があるのですが、 黄斑は網膜の中心部にあり、真ん中が少しへこんだ直径6ミリほどの領域で、一番感度の高い場所です。黄斑で物の形、大きさ、色などの情報の大半を識別しているといえます。

 

片目からやがて両目に

 黄斑が異常に老化して起きる病気が加齢黄斑変性です。「滲出型」と「萎縮型」に分類され、滲出型は日本人に多くみられ、進行が速いタイプです。網膜の後ろにある脈絡膜から異常な新生血管が伸び、そこからの出血やしみ出た水分が黄斑部の視細胞を傷めます。その結果、見ようとする中心部分が見えづらくなり、ゆがんで 見えたり、小さく見えたり、まん中が暗くなったりという症状が 起きます。

 症状は片目から始まりますが、やがて両目に及ぶ人が多く、失明の原因にもなります。片目に病気が起きても両目で見ると気付かないことがあります。 時々片目を隠して問題がないか自己チェックをお勧めします。例えば片目を隠し、カレンダーの日にちを区切る縦線、横線のゆがみや、見えにくい数字がないかなどのチェックが有用です。

 

最近増加傾向です

 加齢黄斑変性は、アメリカでは成人の失明原因の第1位です。日本の第1位は緑内障ですが、食生活の欧米化、高齢者人口の増加のためか、患者数が増加してきています。2007年の推定患者数は約69万人といわれ、9年前に比べ倍増しています。なぜ起こるかの原因はまだはっきりと分かっていません。 網膜の老化現象と考えられていますが、長年にわたって光を見ることに関係しているのではないかと言われています。 また、喫煙、高血圧がこの病気を速める危険があると考えられています。女性より男性に多くみられます。

 

その診断方法は

 診断は、網膜の下にある新生血管(脈絡膜新生血管)の部位、大きさなどから判断して治療方法を決定します。眼底検査のほか、眼底造影検査という腕の静脈から色素を注射し、色素が心臓から眼球に送り出されてくる状態を、眼底カメラで写真やビデオに記録することによって、 新生血管を捉えることができます。また、光干渉断層計で網膜、脈絡膜の断面像を捉えることができ、脈絡膜新生血管の部位、深さ、広がりを知ることができます。

新治療方法が次々と

 治療の主流はレーザー光凝固でしたが、脈絡膜新生血管をつぶす時に 、同時に正常網膜にもダメージを与えてしまうために、黄斑のまん中 近くに新生血管がある場合は治療ができませんでした。04年に光線力学的療法(PDT)が認可され、光線過敏物質を注射によって体内に入れて 脈絡膜新生血管に集まった時を目掛けてレーザーを照射し、 新生血管だけをつぶすという方法です。09年に血管新生を止める薬物が認可され、46週おきに眼球に直接注射することで、視力回復効果も望めるようになりました。1211月には2カ月ごとに注射する新薬も承認されました。しかし、重症の場合は黄斑の障害が残るため回復にも限界があります。

 

早期発見が最重要

 加齢黄斑変性はノーベル医学生理学賞を受けた山中伸弥教授が開発した人工多能性幹細胞(iPS細胞)による初の臨床研究の対象に予定され、注目を浴びています。臨床研究は、他の治療法で効果がない重症の患者少数を対象に、安全性の確認から開始されました。

 黄斑部のダメージが軽い早期に発見することによって、重症化を予防することが重要です。50歳以降の年1回の眼底検査によって、症状が出る前に起きる目の中の変化を見つけることができます。黄斑部に老廃物がたまることによってできる「ドルーゼン」が初期変化と考えられています。この段階なら、ビタミンACEと亜鉛が入ったサプリメントを摂ることで加齢黄斑変性になりにくいという報告があります。早期発見のために、片目での自己チェックをお勧めします。


2014年グラフ旭川7月号市民の健康ガイド

「眼科の上手なかかり方」

 

 内科と違って、眼科ってあまり馴染みがないですよね。もちろん目が調子悪くなったら受診して欲しいのですが、馴染みがないだけに、何となく行きにくいなぁと感じている方もいらっしゃるのではないかと思います。眼科に限らず、病気の対処に大切なことは「早期発見・早期治療」です。今回は、眼科でどのようにすればスムーズな診察が受けられるのかについてお話します。

 

まずは問診票の記入を

 多くの眼科では、初めての患者さんに「問診票」の記入をお願いすると思います。あらかじめ教えてもらえると、症状のおおよその見当や事前の検査が必要かどうかなどが分かり、準備がスムーズにできるので、余計な待ち時間を減らすことにつながります。分かる範囲でかまいませんので必ず記入をお願いします。

 目は左右2つあるので、どちらの目に症状があるのかを教えてください。この時に正しい情報が得られないと正しい診断ができるまでに時間がかかったり、本当は不必要な検査をすることになったりします。例えば「目がかすむ」という理由で受診された時は、先に視力検査・屈折検査・眼圧検査をした後に診察となります。「目やに」が多いという場合は、感染性の結膜炎の可能性があるため、視力検査は後日になります。

 

症状をメモして持参を

 いつごろから症状があり、どう変ってきたのかを教えてください。いつからの症状かによって、より正確に診断を絞ることができます。治療に 反応しやすいものかどうかの判断にもなります。家でメモを作って持参されると良いと思います。

 また、いろいろな症状がある場合、自分にとって最も重要と思う症状から順番に教えてください。例えば、過去に目の手術を受けている場合など、手術の影響が 出てきている可能性もあるので正直に教えてください。 他の眼科で治療を受けている場合も同様です。緑内障で眼圧を下げる 目薬を使用して眼圧が正常なのと、何も治療せずに眼圧が正常なのでは、その意味合いが 違ってきます。その場合、使っている目薬の名前が分かると助かります。

 

眼鏡の度数は合ってる?

 眼鏡が合っていないために疲れ目の症状が出ている場合や、遠近両用眼鏡を 掛けたほうがよく見える場合など、眼鏡が不適合なために症状が出ていることもあります。 度数と、その眼鏡を掛けた視力検査が必要です。普段使っている眼鏡を持参していただけますと、ありがたいです。なかには、普段使っていない眼鏡まで、たくさん持って来る方もいますが、普段使いの眼鏡のチェックが大切だと思います。いつ頃作った眼鏡かも教えてください。また、 コンタクトレンズは、使用方法によっては黒目に傷が 付くこともあり、傷の有無なども検査します。

 

眼科以外の病気について

 糖尿病や高血圧があると眼底出血を引き起こすことがありますが、かなり進行 しないと自覚症状は出てきません。逆に見えにくいなどの自覚症状が出てきてからでは手遅れに なってしまうこともあります。 一見、目と関係ないと思われる病気でも、治療中の病気(もしくは指摘されたことのある病気) があれば教えてください。また、服用しているお薬もお知らせいただきたいと思いますので、お薬手帳を見せてください。

 

検査は怖くありません

 視力検査は重要な検査の一つですが、本人の自覚検査です。見ようと目を細めることなく、リラックスして答えてください。はっきり見えなくても、輪の開いている方向が何となくでも分かれば答えてください。他にも検査室には、いろいろな器械があり、検査を受けてもらいますが、痛くないので、安心して受けてください。器械で検査を受ける際は、お顔を固定していただけますと、検査がスムーズに進みます。あご台にしっかりとあごをのせて、ひたい当てにひたいを付けてお顔を固定してください。

 精密眼底検査が必要と思われる方には、瞳をひろげる目薬を点眼します。瞳をひろげる目薬を点眼しますと、瞳が大きくなって、光が入っても瞳が小さくならなくなります。そのために、特に天気の良い日には、かなりまぶしく感じます。また、夜でも対向車のライトがまぶしく感じられます。この目薬は45時間効き目が残ってしまいます。「目がかすむ」「黒い物が飛んでいる」「物が歪んで見える」など、見え方に異常を感じる場合には、精密眼底検査が必要です。見え方に異常を感じて眼科を受診する場合は、ご自分で運転しないで受診していただけますと、ありがたいです。

 目に何か気になることがありましたら、どうぞお近くの眼科にかかってください。


2013年グラフ旭川8月号市民の健康ガイド

「白内障の手術は1回しかできないの?」

 

 外来で患者さんの診察をしている中で、よくある質問の一つに「白内障の手術は1回しかできないのですか」というのがあります。白内障の手術自体は1回しかできないのではなく、1回しかする必要がないことを話していますが、他の病気になってしまった時には、その治療が必要になります。今回は白内障の手術の後に生じる最も頻度の高い合併症である後発白内障についてのお話をー。

 

注意、手術後の視力低下

 白内障手術が問題なく無事に終わり、視力回復が得られて順調に過ごしていたケースでも、手術後しばらくたってから視力が低下してくることがあります。他の病気にかかってしまったためという場合もありますが、後発白内障が原因ということが多くみられます。

 現在の白内障手術は、水晶体の袋の前面(前嚢)を円形に切除し、水晶体の中身を超音波の器械で破砕吸引し、袋の後面(後嚢)は残し、その袋の中に眼内レンズを移植します。手術後数か月から数年経過したころに徐々に水晶体の後嚢が濁ってきますが、これは後嚢混濁と呼ばれます。この後嚢混濁によって視力低下をきたした状態を後発白内障といいます。

 

3つのタイプ

 後発白内障は手術後に残った水晶体上皮細胞が増殖・分化して生じる水晶体の不完全な再生と考えられています。現在の白内障手術では、水晶体嚢を温存しますので、水晶体上皮細胞を完全に除去することは不可能なため、後発白内障が起きることがあります。

 後発白内障は、臨床上3つに分類されます。一つは線維性後嚢混濁で、前嚢切開縁を中心に白濁が広がるものです。二つ目が水晶体前後嚢に囲まれた水晶体周辺部がドーナツ状に盛り上がるゼンメリング輪です。そして三つ目が眼内レンズと後嚢の間に生じるキャビア状の「エルシュニッヒ真珠」と呼ばれるタイプのものです。

 

術後5年で30%の発生率

 発生率については、多くの報告がなされています。眼内レンズの素材、眼内レンズ光学部のエッジの立ち方などのデザイン、前嚢切開の大きさなどがその発生率に影響すると考えられていますが、おおよその発生率は、術後1年で10%、3年で20%、5年で30%くらいと言われています。

 後発白内障が発生しやすい患者側の因子としては、ぶどう膜炎、網膜色素変性、アトピー、強度近視などがあり、白内障術後に炎症をきたしやすいことが後発白内障の発生を促すと考えられています。

 

痛みのないレーザー手術

 後嚢混濁が進行し、視力低下が起きたらレーザー治療が行なわれます。ネオジム・ヤグレーザーのレーザー光が1点に収束したときに生じる衝撃波によって、後嚢を切開します。

 この治療は通常外来で使用している細隙灯顕微鏡と同様の器械にレーザーが組み込まれていますので、外来で実施することができます。コンタクトレンズを目に装着して治療を行ないますので、点眼麻酔を使用しますが、レーザー治療には全く痛みを伴いません。通常は数分で治療が完了します。治療後には、切開した後嚢が硝子体側に遊離しますので、一時的に飛蚊症が生じますので、あらかじめ説明が必要です。

 

合併症

 ネオジム・ヤグレーザー後発白内障切開術は、有効性、安全性ともに高い治療と考えられていますが、術後合併症の可能性もあります。最も頻度が高いのは虹彩炎、眼圧上昇です。眼圧上昇予防剤の点眼を術前、術後に使用し、術後にはステロイド点眼を処方するのが一般的です。

 また、白内障手術後の比較的早期に後発白内障切開術を施行した際に、嚢胞様黄斑浮腫という視力低下の原因となる合併症を引き起こす危険性があること、またまれにではありますが、網膜剥離の発生頻度が上昇することも報告されています。したがって、後発白内障切開術後には、眼底検査をしっかり行なうことが重要です。

 白内障の手術自体は1回で完結するものですが、白内障術後の視力低下にはいろいろな原因が考えられます。視力低下の原因が後発白内障だった場合は、レーザー治療によりまた見えるようになりますので、とても喜んでもらえます。

 しかし、他の病気が原因である場合には、それぞれの病気に対する治療が必要になります。早期発見、早期治療によって治療可能な病気もありますので、白内障術後の視力低下が起こった時は、すぐに眼科を受診して、その原因を明らかにする必要があります。


2012年グラフ旭川6月号市民の健康ガイド

「検査の数だけ抱きしめて」

 

1.はじめに

 昨年6月号の市民の健康ガイドに「私をスキーに連れてって」のパロディで「私を眼科に連れてって」、9月号に「彼女が水着にきがえたら」のパロディで「彼女が診察室に入ったら」というお話を掲載していただきました。そこで今回は「波の数だけ抱きしめて」のパロディで「検査の数だけ抱きしめて」というタイトルで、眼科で行われる検査についてのお話をさせていただきます。

2.精密検査を受けましょう

 眼科診療の特色って何でしょうか。皆さんの考える特色と、私の考える特色に違いがあるかもしれませんが。私の考える特色は、検査が多い、診察室が暗くなる、診察がまぶしい、ということでしょうか。

 眼科に診察を受けに行くと、診察の前に視力、屈折、眼圧などの検査があり、時間を要してしまうという印象があると思います。もちろん、「はやり目」のような感染性疾患が疑われる時は、検査をせずにすぐに診察する場合もあります。そこで今回は数多い眼科検査器械についてお話しします。

3.眼科の検査器械あれこれ

1)オートレフラクト・ケラトメータ

 オートレフラクトメータは近視、遠視、乱視などの目の度数を測ります。のぞくと牧場の家や気球などの指標が見えますので、ぼんやりとその指標を見ていていただきます。

 オートケラトメータは角膜(黒目の表面の膜)のカーブを測ります。乱視の主な原因は角膜のカーブのゆがみです。コンタクトレンズ処方の際には必ずこの機械で検査し、白内障手術の術前検査として、目の中に入れる眼内レンズの度数を決定する際にも使います。

 これらの検査は痛くもまぶしくもないのでご安心ください。

2)ノンコンタクト・トノメータ

 これは眼圧といって、目の硬さを測ります。 目の表面にピュッという空気が当たります。初めての時は、 少しビックリされることがありますが、決して痛い検査では ありませんので、ご安心ください。患者さんの中には 

「空気銃で撃たれる検査は怖いから、受けたくない」と言われる方もいますが、最近の器械は以前のものより空気銃の 威力が落ちていると思います。確かに空気が 「いつ出るか、いつ出るか」と思うと嫌な気分になることは分かります。 眼圧を測って、緑内障がないか調べます。緑内障は、自覚症状がなく、 視野がかなり狭くなるまで気付かない病気ですので、早期発見が 重要になります。

3)角膜内皮細胞検査

 コンタクトレンズ希望の方、目の手術を受ける(受けた)方には、角膜内皮細胞検査を行います。角膜内皮細胞は、角膜の透明性を保つために重要な働きをしています。加齢と共にともに減少することは避けられませんが、コンタクトレンズの誤った使用や、目の手術によっても減少し、減少した細胞は再生しません。コンタクトレンズで細胞を減らさないように、正しいフィッティングのレンズで、かつ?酸素透過性の優れたレンズを正しい使用法で装用しなければなりません。また白内障手術で角膜内皮細胞を減らさないように、目に優しい白内障手術を心がけています。

4)視野検査

 緑内障の診断と経過観察には、精密な視野検査が欠かせません。目の神経が傷害されて、見える範囲が知らないうちに狭くなってくる?病気が緑内障です。40歳以上の方の17人に1人は緑内障と考えられています。クラス会をやったら、クラスに2人は緑内障の人がいる確率になります。視野検査は自覚検査なので、検査時間が長くなると、疲れて集中できず、検査結果があてにならなくなる心配があります。検査時間は短く、しかし必要な部位の検査は確実に行う必要があります。最近の自動視野検査器械は短時間に緑内障の初期変化を見つけ出すことができるように設計されています。

5)眼底カメラ

 眼底カメラにはカラー写真を撮るものから蛍光写真を撮るものまであります。眼底を客観的に記録するだけでなく、診断的価値も高いものです。撮影部位や撮影倍率を変えることによって目的の部位を確実に撮影することが可能です。

6)超音波検査

 超音波の性質を利用して目の奥行きを測るAモードは、白内障手術時に挿入する眼内レンズの度数を決めるために使います。Bモードは眼底が見えないときに眼内の状況把握に有用な情報を与えてくれます。

7)光干渉断層計

 OCT と呼ばれ、今まで捉えることのできなかった眼底の断層像を撮影することができるようになりました。近年増加傾向にある加齢黄斑変性、黄斑円孔の診断、さらに緑内障の診断にも応用されるようになってきています。

8)網膜電位図

 光刺激に対する網膜の電気反応を記録する器械です。網膜の他覚的検査として、網膜のどの層に機能異常があるのかを推測できます。

9)ヘススクリーン

 自覚的な眼位ずれを記録する検査で、眼球の動きと複視の状態を検査することができます。

 

4. さいごに

 眼科クリニックではいろいろな検査器械があり、これらから得られる客観的な結果と、患者さんの主観的な症状の話を聞き、目の表面と場合によっては目の奥までみて診断をつけ、治療します。検査器械から得られる結果は非常に重要ですし、信頼できる結果が得られるように、注意深く検査します。検査器械はどれも重量があり固定して使用していますので、皆さんに次々と椅子を移っていただく面倒をお掛けしますが、どうぞご容赦ください。


2011年グラフ旭川9月号市民の健康ガイド

「彼女が診察室に入ったら」

 

1.はじめに

 今年の6月号の市民の健康ガイドに「私をスキーに連れてって」のパロディで「私を眼科に連れてって」というお話を掲載していただきました。

 そこで今回は「彼女が水着にきがえたら」のパロディで「彼女が診察室に入ったら」というタイトルで、眼科診察室で行われる検査についてのお話をさせていただきます。

 

2.細隙灯顕微鏡検査

 まず最初に、これは細隙灯顕微鏡で写した右目の写真です。

 瞳を大きくする目薬を入れた後に撮りましたので、瞳(瞳孔)が大きく広がっています。細隙灯という細い光を左側から照らしていますので、C のような光の筋となっているのが、透明な角膜からの反射です。瞳の中にピント合わせの働きをしてくれているレンズ(水晶体)が見えます。この水晶体が白く濁ってくるのが白内障です。

 細隙灯顕微鏡検査では、観察倍率や焦点を合わせる部位を変えることによって、まぶた(眼瞼・マイボーム腺・涙点)、まつ毛(睫毛)、黒目(角膜・前房・水晶体)、茶目(虹彩)、白目(結膜・強膜)だけでなく、検査用レンズを使うと目の奥(硝子体・網膜・視神経)までを立体的に診察することができます。

 この検査は眼科の検査の中でも非常に重要なもので、通常、診察の都度行われます。内科医にとっての聴診器のように、細隙灯顕微鏡は眼科医には大切な検査器械です。

 

3.細隙灯顕微鏡検査のオプション検査

1)生体染色顕微鏡検査

 異物が入ったり、逆さまつげが当たったり、涙の量が減っているドライアイという病気によって、黒目の表面の角膜に傷がつくことがあります。角膜は身体の中でも最も敏感な部位と考えられ、少しの傷でも強い痛みを生じます。透明な角膜についた小さな傷は、色素をつけ、特殊なフィルターを通して観察することによって、見落とすことはありません。また、ドライアイでは涙の量が減っているだけでなく、涙が蒸発しやすい状態になる質の異常を伴うことがあります。角膜を染めた後、瞬きを我慢してもらい、涙の表面の膜(涙膜)が破れる時間を計ることによって、涙の質を定量的に判断することもできるのです。

2)ゴールドマン眼圧計

 点眼麻酔をした後、細隙灯顕微鏡に付属した器械を直接角膜に触れさせることによって、目の硬さ(眼圧)を測定することができます。

3)隅角検査

 前房と呼ばれる角膜と虹彩?水晶体で囲まれる目の中のスペースが狭い場合、また緑内障と診断した場合は、特殊なコンタクトレンズを目に装着し、目の中で房水(眼内組織に栄養を運搬する液体)が流れ出て行く経路が開いているか、つまっているかを検査することや、その部位の異常がないかを調べることが可能です。

 

4.細隙灯顕微鏡検査の上手な受け方

 患者さんは器械の前に座り、あごを台に載せ額を固定します。多少まぶしい感じはありますが、額を離さないよう軽く前のめりになる感じで、まっすぐ見ていただきたいと思います。その後、診たい方向に目を動かすように指示がでますので、指示に従って目だけを動かしてください。それほど長い時間はかからないと思います。

 

5.眼底検査

 これは、眼底カメラで写した右目の眼底写真です。

 丸くお月様のように見えるのが、視神経乳頭と言って、目の神経が脳へと伝わっていく出口です。その中を通って、心臓から目に血液を送る動脈(細いほうの血管)と、帰り道の静脈(太いほうの血管)が走っています。中央の少し暗く見える部分が、黄斑と言って視力にかかわる最も重要なところです。

 手持ち式検眼鏡もしくは額帯式検眼鏡と集光レンズを用いる倒像眼底検査が一般的です。そのままの状態でも眼底検査することは可能ですが、瞳を開く目薬をさして30分ほどしてから行う精密眼底検査では、網膜の端まで観察することができます。目の前に黒いものが飛んでいるように見える飛蚊症のときなどは、精密眼底検査が必要です。

 眼底検査により、硝子体混濁の検出、視神経乳頭の評価、黄斑部を含んだ網膜および血管の変化の検索が可能です。

 

6.眼底検査の上手な受け方

 検査自体は少しまぶしいくらいで、痛くない検査です。 目の中を360度端まで診るためには、患者さんに目を動かしてもらう

必要があります。この時も顔は動かさずに目だけを指示の通りに動かしてください。目薬をさした場合は、検査後も34時間瞳がひろがっているため、見づらくなりますので、なるべく自分で運転せずに来院してください。

7.おわりに

 検査室で行われる細隙灯顕微鏡検査と眼底検査は、眼科の基本診察です。怖くない検査ですので、安心して検査を受けてください。


2011年グラフ旭川6月号市民の健康ガイド

「私を眼科に連れてって」

 

1.はじめに

 「目の検診を受けましょう」と聞いたことはあると思いますが、自覚症状がないとなかなか眼科を受診することはありませんよね。

 眼科の病気にはいろいろありますが意外と自覚症状がなかったり、目は二つあるために片方の目に病気があっても、自覚されにくいことがあり、眼科検診によって病気が見つかることも多いのです。転ばぬ先のつえとして、眼科検診を受けることをお勧めしています。

2.ものを見る仕組み

 人はどのような仕組みでものを見ているのでしょうか。まずはものを見る仕組みをお話させてください。

 目の働きや構造はよくカメラに例えられます。今のところは、「目の奥にもカメラと同じようにフィルムがあって、そこに像を結びます」というふうなお話でご理解いただけていますが、デジタルカメラが当たり前の時代になって来ていますから、その説明の方法も考え直さなければならない時が来るのかもしれません。

 人の目を見た時に、黒目として認識される部分の表面には、角膜という透明な膜があります。角膜の後ろに透けて見えるいわゆる茶目は虹彩と呼ばれ、これは目の中に入ってくる光の量を調節する働きがあります。明るい所、暗い所では虹彩が動き、瞳の大きさを変えますので、カメラの絞りに当たります。この虹彩の後ろに水晶体という透明な部分があります。水晶体はカメラのレンズと同じで、私たちが見ようとするものを正しく、網膜(カメラのフルムに当たる部分)に焦点を結ばせる働きがあります。カメラではレンズが前後に動きますが、水晶体はその厚みを変えることによってピントを合わせてくれています。網膜に映った像が視神経を通して脳に伝えられ、私たちは初めてものを見ることができます。

 目の奥には網膜と呼ばれる神経の膜があります。カメラのフィルムに当たりますが、カメラのフィルムと違って網膜は場所によって感度が違っています。網膜の一番底の真ん中にあたる黄斑という場所が、一番感度が高くなっています。

 

3.眼科検診

 眼科検診でよく知られているものとして、3歳児検診、学校検診、人間ドックでの眼底検診があげられます。

 3歳児検診では、斜視も見つかることはありますが、見た目から親御さんが先に気がつくことが多いものです。3歳児検診で見つけることができる病気に弱視があります。特に片眼の弱視(不同視弱視)は、他方の目の視力は良好ですので、見えにくそうにしているというそぶりがないため、3歳児検診で視力の項目が取り入れられる以前は、就学時検診で初めて見つかって治療がうまくいかないこともありました。

 学校検診では、子どもさんの視力低下を早期に見つけることができます。急に視力が落ちるわけではないので、視力が0.3を切っていても、案外子どもさんは不自由ないと答えるものです。でも0.3を切っていると黒板の字は見えにくいはずですので、眼鏡も考えてもらいたいと思います。以前、学校検診で行われていた色覚検査は必須ではなくなってしまいました。家族に色覚異常の方がいる場合は、是非眼科で検診を受けることをお勧めします。

 人間ドックでの眼底検診では、以前は高血圧の変化、動脈硬化の変化を見ることが目的でした。最近では、日本人には緑内障の患者さんが多いことが判明し、眼科医が判定する人間ドックの眼底写真の視神経の変化から見つかることが増えています。緑内障は進行するまで自覚症状の出ない病気で、逆に自覚症状が出た時には、かなり進行していることが多い病気です。

 

4.眼科で行われる検査

 眼科では、視力検査、眼圧検査、細隙灯顕微鏡検査、眼底検査を行います。

 視力検査は、裸眼視力(そのままの状態でどれくらい見えるか)、眼鏡視力(ご自分の眼鏡でどれくらい見えているか)、矯正視力(一番ピントがあった眼鏡をかけた状態でどこまで見えるか)の検査を行います。

 眼圧検査は、目の硬さを測るものです。緑内障の病気の進行には高い眼圧が影響していると考えられており、眼圧の把握が重要と考えられます。緑内障は40歳以上の17人に一人くらいの割合で発症することが明らかになりましたが、自覚症状が少ないために、その内の8090%の方は眼科を受診していないと言われています。

 細隙灯顕微鏡検査は、診察室で行われる検査で、目の表面から目の奥まで直接観察し、必要によって色素やレンズを使って、目に病気がないかを詳しく調べる検査です。

 眼底検査は人間ドックの眼底検査より詳しく見るために、目薬を入れて瞳を広げて検査する方法があります。この目薬の検査を受ける場合は、4.5時間まぶしくなりますので、すぐには車の運転は避けていただきたいと思います。もちろん後日改めて検査を受けることもできますので、ご相談していただきたいと思います。

 

5.さいごに

 眼科で行われる検査は、どの検査も痛みを伴う検査ではありません。少しまぶしいと感じることはあるかとは思いますが、基本的には怖い検査ではありませんので、おっくうがらずにぜひ眼科検診を受けることを勧めします。


2009年グラフ旭川2月号市民の健康ガイド

17分の1

 

1.はじめに

 「17分の1」という確率は高いでしょうか、皆さんはどう感じられますか?

 124日に発表された年賀状の4等のお年玉切手シートの当たる確率は50分の1です。当たりそうで、なかなか当たりませんよね。

 40歳以上の17人に1人と言われたら、どうですか?久しぶりに集まったクラス会、クラスの中に2人か3人いるとすると多いですよね。

 実はこの40歳以上の17人に1人というのは、緑内障の患者さんの割合なのです。日本緑内障学会の調査によりますと、60歳代では13人に1人、70歳以上では8人に1人が緑内障ということがわかりました。

 

2.緑内障とは

 人はどのような仕組みでものを見ているのでしょうか。ものを見る仕組みを考えながら、緑内障という病気について考えてみましょう。

 目の働きや構造はよくカメラに例えられます。黒目(角膜)のすぐ後ろに透けて見えるいわゆる茶目は虹彩といい、これは目の中に入ってくる光の量を調節する働きがあり、カメラのしぼりにあたります。この虹彩の後ろに水晶体という部分があります。水晶体はカメラのレンズと同じで、私達が見ようとするものを正しく、網膜(カメラのフィルムにあたる部分)に焦点を結ばせる働きがあります。網膜に映った像が視神経を通して脳に伝えられ、私達は、初めてものを見ることができるのです。

 緑内障は視神経がおかされて、見える範囲(視野)が狭くなる病気です。視神経は100万本以上の神経線維の束で、網膜に映った像を脳に運ぶ、いわば目と脳をつなげるケーブルの働きをしています。電気器具のケーブルが接続部分で壊れやすいように、視神経も視神経乳頭と呼ばれる眼球からの出口の部分が傷害を受けやすくなっています。視神経乳頭に傷害を与える一番の原因は、眼球内の圧力(眼圧)と考えられています。

 

3.眼圧とは

 目には一定の硬さがあります。これは、目の中で作られている水と出ていく水が丁度つり合っていて、目の硬さをほどよい状態に保っているからです。眼圧は血圧と同じ単位(mmHg)で測定されますが、正常の眼圧は1021mmHg です。眼圧が上がることによって、視神経乳頭の傷害が起こることは解明されており、以前は緑内障と言えば、眼圧が高いと考えられていました。しかし、日本人には眼圧が正常範囲に入っていても緑内障になる人が多いことが判明し、正常眼圧緑内障と呼ばれています。正常眼圧緑内障では、視神経の強度が関係しているとみられ、例え正常範囲内の眼圧でも、その患者さんにとっては負担になっていると考えられます。

 

4.緑内障の症状・検査

 視神経がおかされると徐々に消失してしまい、その部分の情報は脳に伝わらずに視野が欠けてしまいます。しかし、視神経の傷害はゆっくりと起こり、視野も少しずつ狭くなっていくため、自覚症状はほとんどなく、知らないうちに病気が進行しているのが緑内障の怖い点です。

 緑内障は、眼圧検査、眼底検査、視野検査などから診断でき、これらは眼科で一般的に行われる検査です。緑内障は自覚症状がほとんどありませんので、眼科受診した際に偶然発見されるということが最も多いのです。どの検査も、痛くありませんので安心して検査を受けて下さい。

 

5.緑内障の治療

 緑内障による視野の欠けや狭まりは、治療で元に戻すことはできません。治療の目的は、緑内障がそれ以上に進まないようにすることです。早期に発見し、早くから治療を受ければ、失明に至らず視力を保つことができます。治療は視神経乳頭に傷害を与える一番の原因である眼圧を低くコントロールするということです。

 現在では緑内障治療の点眼薬だけでも10種類以上あり、非常によく眼圧を下げる点眼薬も出ています。まずは点眼薬による治療が開始されますが、病状の進行が止められない場合にはレーザー療法、手術療法が必要になる場合もあります。

 

6.さいごに

 緑内障は、白内障とならんで壮年期以降の人々にみられる眼科の代表的な病気です。白内障の多くは、白髪や肌のシワと同じで、年齢とともに誰にでも起きる変化ですが、緑内障は皆に起きる変化ではなく、目の病気です。緑内障と白内障、名前はよく似ていますが、全く別の病気です。緑内障は早期に発見し、早くから治療を受ければ、失明に至らず視力を保つことが出来ます。生涯にわたり目の健康を保つために、40歳を過ぎたらぜひ眼科での目の検診を受けることをお勧め致します。


2008年グラフ旭川2月号市民の健康ガイド

「私の目が黒いうちは

 

1.はじめに

 「私の目が黒いうちは」っていうセリフ、テレビドラマで強面のお父さんが言っているのをたまに見かけますよね。今回はそういう話ではなく、進行すると瞳の中央が白くなってくる白内障についてのお話を。

 

2. 白内障とは

 目の働きや構造はよくカメラに例えられます。黒目(角膜)のすぐ後ろに透けて見えるいわゆる茶目は虹彩といい、これは目の中に入ってくる光の量を調節する働きがあり、カメラのしぼりにあたります。この虹彩の後ろに水晶体という部分があります。水晶体はカメラのレンズと同じで、私達が見ようとするものを正しく、網膜(カメラのフィルムにあたる部分)に焦点を結ばせる働きがあります。網膜に映った像が視神経を通して脳に伝えられ、私達は、初めてものを見ることができるのです。

 白内障とは、水晶体が白く濁ってくる状態です。水晶体が濁り始めると、ものがかすんだり、二重に見えたり、まぶしく見えたりし、進行すれば視力が低下し、眼鏡での矯正ができなくなります。

 

3. 白内障手術

 白内障になると、初期のうちには薬によってその進行を遅らせることができる場合がありますが、完全に治療することはできません。進行した白内障は濁った水晶体を手術によって取り除く方法が一般的に行われています。白内障は手術により視力を取り戻すことができる良性の病気です。

 手術は、局所麻酔で行われ、痛みはありません。手術時間は白内障の程度によって様々ですが、通常1030分程度です。国内で年間100万件以上行われておりますので、1年間で上川支庁の住民の方全員が両眼の手術を受けている計算になります。

 手術は超音波乳化吸引術という方法が一般的で、3mm以下の傷から超音波の力で水晶体の濁った中身だけを吸い出します。白内障を取り除いたあとに、水晶体の屈折力を補正するための眼内レンズを挿入します。眼内レンズも、挿入する傷口を小さくするために折り畳んで入れるやわらかいものが主流ですので、傷口が3mm以下のままで済み、縫合の必要がありません。

 小切開無縫合超音波乳化吸引術を行うことにより、患者さんの全身状態や手術後の通院に問題がなければ、日帰り白内障手術を受けることも出来ます。日帰り手術を受ける患者さんは、通院できる方、重篤な合併症がない方、家族の協力が得られる方などが条件となります。目の手術というと怖いイメージがありますが、白内障の手術技術、器械は進歩し、材質の良い眼内レンズも開発されていますので、安心して手術を受けて下さい。

 手術により、ほぼ白内障が起きる前の見やすさを取り戻せますが、眼内レンズは水晶体のようにピントを調節する機能がないため、不便に感じることがあります。その場合は眼鏡を使用します。眼鏡は手術後1カ月ほどたって、視力が落ち着いてから作っていただいています。 

 当クリニックでは、まだ行っていませんが、昨年2月に多焦点眼内レンズと呼ばれる遠近両用の眼内レンズも認可されました。遠近両用眼内レンズにしますと、術後に眼鏡をかける時間が少なくて済むようです。遠近両用眼内レンズは保険が適応されませんので、片目の手術に35万~45万円の自己負担となります。

 

4. 当クリニックでの日帰り白内障手術の現況

 おかげ様で当クリニックで日帰り手術を受けてくださった方が

増えてきています。開院してから2004年末までに202件、2005年に215件、2006219件、2007219件、2008211件の手術をさせていただきましたので、1066件執刀させていただいたことになります。両眼の手術を受けてくださった方が365人いらしたで、701人(男性336人女性365人)の方の目をあずからせていただいたことになります。

 患者さんの年齢別の人数を調べてみました。一番若い方は36歳で高齢の方は91歳でした。

 70歳代の方が一番多く44%、次いで60歳代の方が27%、80歳代の方が17%でした。

 

5. 日帰り白内障手術を考えている方へ

 白内障手術を受けている方が周りにも多いと思いますが、なかには「日帰り手術で行うものだから簡単なんでしょ」と非常に安易に考えられている方がいらっしゃることがあります。日帰りで手術を行いますが、手術の内容は入院手術と同じです。術後を病室で過ごすか、住み慣れたご自宅で過ごすかの違いだと考えてください。手術後、安静を強いることはありませんが、手術当日は眼帯をしていますので、片目ですと遠近感が分らなくなり、非常に足元手元がおぼつかなくなります。台所仕事などは、手術当日は避けるようにお話しております。

 白内障手術での一番の心配事は目にばい菌が入ることです。手術後は目を擦らないことが、最も重要です。手術後の3日間は入浴を禁止していますし、2週間は保護眼鏡をかけてもらっています。また、手術後しばらくは、ばい菌止め(抗菌剤)、炎症止め(消炎剤)の目薬を使っていただきます。

 日帰り手術が可能かどうか、一度ご相談にいらしてください。当クリニックは予約の方を優先して診療しておりますので、ご来院の前に電話かメールでご予約をお願い致します。


2007年グラフ旭川2月号市民の健康ガイド

「私の目の中の

 

1.はじめに

 数年前に「私の頭の中の消しゴム」という映画がヒットしましたが、今回は、眼科を受診されるきっかけとして比較的多い、「飛蚊症(ひぶんしょう)」についてのお話です。飛蚊症の正体は「私の目の中の濁り」なんです。

 飛蚊症の不快な症状を訴える患者さんのお話を伺っていますと、「嫌な気分」の訴え方にも、十人十色、色々あります。

・睫毛に何かついているみたいで、うっとおしい

・ススが飛んでいる

・カエルの卵みたいなものが動いている

・タバコの煙りの輪が飛んで見える

・フワフワした雲みたいなものが見える

・髪の毛みたいなものが動いている

・微生物みたい

・ゴマが見える

などなど・・・

皆さん、不快な症状を色んな言い方で教えて下さいます。

 

2. 飛蚊症とは

 人はどのような仕組みでものを見ているのでしょうか。ものを見る仕組みを考えながら、飛蚊症という症状について考えてみましょう。

 目の働きや構造はよくカメラに例えられます。黒目(角膜)のすぐ後ろに透けて見えるいわゆる茶目は虹彩といい、これは目の中に入ってくる光の量を調節する働きがあり、カメラの絞りに当たります。この虹彩の後ろに水晶体という部分があります。水晶体はカメラのレンズと同じで、私たちが見ようとするものを正しく、網膜(カメラのフィルムにあたる部分)に焦点を結ばせる働きがあります。網膜に映った像が視神経を通して脳に伝えられ、私たちは初めてものを見ることができるのです。

 カメラのボディは硬く頑丈に作られていますが、目は柔らかく、カメラのボディの中は空っぽですが、目の中には硝子体(しょうしたい)という生卵の白身のようなドロドロした透明な液体が詰まっています。

 この硝子体の中に濁りができますと、明るい所を見た時に、その濁りの影が目に底の網膜にうつり、それを飛蚊症として感じるわけです。

 飛蚊症の原因は、硝子体の濁りなのですが、この濁りの原因が、病気によるものなのか、そうでないのかを鑑別することになります。

3. 飛蚊症は心配ないって聞いたけど

 飛蚊症で受診される方のほとんどは、心配のないもの(病気ではないもの)なのですが、なかには網膜剥離や網膜剥離の原因となる網膜の穴が見つかる場合や、目の中の出血や、目の中の炎症など病的なものが原因となっている場合もあります。

飛蚊症には

心配ないもの:生理的飛蚊症

病気によるもの:病的飛蚊症

があるのです。

 

4. 精密眼底検査

 この鑑別には、瞳をひろげる必要があります。瞳をひろげる目薬を点眼し、30分くらいお待ちいただき、詳しく目の中の端っこまで、見せていただきます。

 検査自体は少しまぶしいくらいで、痛くない心配のない検査です。ただし検査後も34時間瞳がひろがっているため、見づらくなりますので、なるべくご自分で運転せずにお出でください。

 

5. 生理的飛蚊症と病的飛蚊症

生理的飛蚊症

精密眼底検査を受けていただき、目の中に病気が見つからなければ、その飛蚊症は心配なものではなく、生理的飛蚊症です。生理的飛蚊症の硝子体の濁りは年をとることによって生じた硝子体の変化によるものです。と、お話しますと、「年のせいですか・・・」と無意味にがっかりさせてしまう心配がありますので、「20歳を過ぎた頃から出てくるのですが・・・」と説明させていただいております。と言いますのも、20歳頃から飛蚊症を感じている自分が、「年のせい」とは思いたくないという気持ちの表れかもしれません。

病的飛蚊症

これは目に病気があって硝子体に濁りができるものです。飛蚊症が病気の初発症状になっているわけですから、見逃すことはできません。

1. 網膜裂孔・網膜剥離

 神経の膜である網膜に穴があく病気です。穴があく時に飛蚊症、光視症(暗い所で光が見える症状)を伴うことがあります。早く見つければレーザー光線で穴の周りを焼き囲み、網膜剥離になることを防ぐことができます。

 見つけるのが遅れると網膜剥離となり、手術が必要となってしまいます。

2. 硝子体出血

 出血の原因は網膜に穴があいた時、網膜の血管に病気のある時などです。糖尿病網膜症が悪化して、出血する場合もあります。

3. ぶどう膜炎

 目に炎症の起きる病気に伴って、硝子体が濁る場合があります。

病的飛蚊症の場合は、それぞれに適切な治療が必要になります。

 

6.さいごに

 飛蚊症を自覚した日時がはっきりしている時、視力低下、かすみなどの症状を伴う時は、病的飛蚊症の可能性がありますので、なるべく早く診察を受けに来て下さい。

 網膜の端っこまで診せていただいて、異常がなければ心配のない場合がほとんどですので、安心のために診察を受けていただきたいと思います。


2006年グラフ旭川2月号市民の健康ガイド

「目に入れても痛くない話」

 

1.はじめに

 私には「目に入れても痛くない」ほど可愛がっているものがあります。大学1年生の時からですので、もうかれこれ24年の付き合いになります。それは、コンタクトレンズ(CL)です。

 私は強度近視でCLなしでは人前には出たくないですし、CLの恩恵にあずかっている者の一人ですが、そのありがたいCLでトラブルを起こす方が非常に多いので、正しく使用していないために危険にさらされている方には、ついつい辛口になってしまう傾向があります。

 CLに対する私の考え方は、「CLはあくまでも目にとっては異物であり、きちんと使用しなければ目に害を及ぼす危険性のあるもの」ですが、「きちんと使用すれば安全であり、視力の悪い人にとって非常に便利でありがたいもの」というものです。

2. コンタクトレンズの始まり:豆知識

 世界で最初にCLを発明したのはレオナルド・ダ・ビンチと言われています。1508年に大きなガラスボウルに水を入れて、水面に顔をつけてボウルの中の水を通して外を見る実験をしたとされています。

 一方、日本でのCLの始まりは、日本医史学会評議員 奥沢康正先生によりますと、「史料から確認できないが、豊臣の残党狩りを逃れるために、魚のうろこを角膜上に載せて盲人を装ったのがはじめとされる」とのことです。眼鏡とは違う方法で良く見えるようにしようという発想と目の中にモノを入れて見えなくしてしまうという全く逆の発想。モノの始まりって興味深いですね。納豆を最初に食べた人って勇気がある、って話がありますが、最初にCLを入れた人も勇気ありますよね。

 

3. CL の種類とその特徴

A.ソフトコンタクトレンズ

1)1日使い捨てレンズ

1日使ったら捨ててしまいますので、レンズに汚れがたまる心配がありません。また、洗浄・消毒などのケアが不要です。アレルギー性結膜炎にも対応しやすいという利点があります。ただし、毎日使う場合は、コスト高になってしまいます。

2)定期交換型使い捨てレンズ

1週間、2週間、1ヵ月で交換するタイプのレンズです。このうち1週間型は1週間、目につけたままのタイプのレンズで、トラブルが多く、お勧めしていません。定期交換型は洗浄・消毒などのケアが容易で、1日使い捨てよりもコスト面で有利です。

3)通常のSCL(コンベンショナルレンズ)

洗浄・消毒などのケアが面倒です。どうしても汚れてしまいますので、なるべく早めの交換が必要です。アレルギー性結膜炎の強い方には使えません。

B.酸素透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL

安全性には、最も優れています。ただし、慣れるまでに時間がかかり、異物感のため装用できない方もいらっしゃいます。近視度数の強い方、1日の装用時間の長い方にお勧めしています。

4. 眼鏡との併用

 CLを使用する方に(既に使用している方にも)強調したいことは、「眼鏡と併用しましょう」ということです。CLは角膜に直接載せますが、角膜に必要なものは、酸素です。角膜は涙から酸素という栄養を受けていますので、正しいフィッティングで、酸素透過性の優れたレンズを、正しい使用法で装用しなければなりません。起きている時間帯に眼鏡をかけて、CLをしていない状態の時間を持つようにしましょう。お勧めは、お家に帰ったら眼鏡にすることです。

CLは 眼鏡の代わりに使えるものですが、眼鏡の替わりに使うものではありません。

 

5. 角膜内皮細胞

 不適切なCLを長期に使用した場合には、角膜障害を起こしてしまうことがわかっています。角膜内皮細胞は角膜の透明性を保つために重要な働きをしていますが、加齢とともに減少し、恐ろしいことにCLの誤った使用によっても減少し、一度減少した細胞は再生しないということがわかっています。透明な角膜を一生守るためには、正しいCLの知識が必要だと考えております。図172歳男性の白内障手術前の角膜内皮細胞です。72歳ですが、角膜内皮細胞数は2769で、異常ありません。一方図2は、SCL30年間使用している56歳女性の角膜内皮細胞です。一つ一つの細胞が大きくなっており、角膜内皮細胞数も981にまで減少しています。これ以上細胞が減少してしまいますと、角膜は透明でいられなくなる怖れがあります。当クリニックでは、CLご希望の方、今までCLを使ってらした方には、角膜内皮細胞検査を行います。また、ご自身の角膜の細隙灯顕微鏡画像もお見せしますので、ご一緒にどのようなCLが目に適しているのか相談させていただきます。

 

6.さいごに

 今や多くの人がCLを装用し、その数は1400万人を超えると言われています。しかし、不適切な使用により、CL装用者の710%に眼障害が発生していると報告されています。大切な目です。CLは「目に入れても痛くないように」可愛がって下さい。


2005年グラフ旭川5月号市民の健康ガイド

「甘くない目の話」

 

1.はじめに

 「甘くない目の話」をさせていただきます。それは、成人の失明原因のトップになっている病気のお話です。毎年3000人以上の方が、その病気の合併症で視力を失っている「糖尿病」のお話です。糖尿病は内科の病気ですが、眼科にも大いに関係があるのです。「甘くない目の話」ですから、糖尿病の方には耳の痛い話になってしまいますが、痛い目に合わないように、お付き合い下さい。

 

2.糖尿病とは

 糖尿病はその名前から「尿に糖が出る病気」と考えられがちですが、血液に含まれる糖分(血糖値)が多い状態が続く病気です。食事に含まれる糖分は、膵臓からでるインスリンというホルモンでエネルギーに変えられますが、糖尿病では、このインスリンの量や働きが低下してしまうことによって、血糖値が高くなってしまいます。糖尿病といえば、のどが渇く、多尿になるというのが、有名な症状ですが、それらの症状は高血糖が持続した場合に出るもので、多くの糖尿病の方は無症状なのです。

 糖尿病の人は糖尿病実態調査によりますと、「糖尿病が強く疑われる人」が690万人、「糖尿病の可能性を否定できない人」の680万人を合わせると、全国に1,370万人いると推定されています。その中で糖尿病で治療を受けている人が約212万人しかいない理由も、自覚症状が出にくいためと思われます。

 

3.糖尿病で目が悪くなるの?

 人はどのような仕組みでものを見ているのでしょうか。ものを見る仕組みを考えながら、糖尿病の目の影響について考えてみましょう。

 目の働きや構造はよくカメラに例えられます。黒目(角膜)のすぐ後ろに透けて見えるいわゆる茶目は虹彩といい、これは目の中に入ってくる光の量を調節する働きがあり、カメラのしぼりにあたります。この虹彩の後ろに水晶体という部分があります。水晶体はカメラのレンズと同じで、私達が見ようとするものを正しく、網膜(カメラのフィルムにあたる部分)に焦点を結ばせる働きがあります。網膜に映った像が視神経を通して脳に伝えられ、私達は、初めてものを見ることができるのです。糖尿病ではカメラのフィルムにあたる網膜が冒されてきます。「糖尿病網膜症」という病気で、カメラのフィルムの感度が低くなったり、フィルム自体が破損してしまうような状態です。

 網膜には細かい血管が張りめぐらされており、画像を映すという働きのためには充分な酸素が必要です。糖尿病の血液は糖分が多く含まれているため、血管に負担がかかり、血液の流れが悪くなって、網膜に充分な栄養を運ぶことができなくなってしまうのです。

 

 4.糖尿病網膜症

 自覚症状の少ない糖尿病ですが、糖尿病網膜症も、初期には自覚症状がありません。糖尿病になってから糖尿病網膜症が出てくるには数年から十年くらいかかることがわかっています。糖尿病にかかって、すぐ目に来るわけではありませんし、血糖コントロールが良好な場合は、網膜症は出てきません。初期には自覚症状がありませんので、ここで眼科の出番です。糖尿病と診断された方は、見え方が何ともなくても眼科を受診し、眼底検査を受けていただく必要があります。糖尿病網膜症は眼底出血から始まりますが、眼底写真の検査だけでは見逃されることもあります。眼底写真は目の奥の中央部分のみしか撮せないからです。眼科で瞳をひろげる目薬をつけて、精密眼底検査を受けることをお勧めします。糖尿病と言われたら、是非眼科を受診して下さい。

 

 5.糖尿病網膜症の進行と治療

 糖尿病網膜症は、単純網膜症、増殖前網膜症、増殖網膜症の三段階で進行していきます。

 単純網膜症の段階では視力には影響がなく、血糖コントロールの改善によって治すことができます。しかし、視力に影響の出てくる増殖前、増殖網膜症の前段階ですので、定期的に眼科を受診し、網膜症が悪化していないか確認することが大切です。

 増殖前網膜症でも、視力に影響の出ていないことが多いことが、この病気が失明につながる最大の要因です。この段階でレーザー光凝固術を行うことが失明に至ることをくいとめる最良の治療です。

 増殖網膜症になって、目の中にすすが飛んだり、赤いカーテンがかかるなどの自覚症状が出てきますと、相当に進んで手遅れに近い状態です。治療としては、硝子体手術が必要になってきますが、その前にレーザー光凝固術が充分に行われているかどうかが、結果を左右することが多いのです。

 

6.さいごに

 糖尿病の方は糖尿病網膜症の治療の時期を逸しないよう、自覚症状がなくても定期的な精密眼底検査を受けることが重要です。定期的に検査を受けなくてはならない点は甘くはないのですが、検査・治療を続けていれば、糖尿病が原因で失明することを防ぐことができます。糖尿病と言われたら、内科での血糖コントロールと眼科での精密眼底検査が必要です。内科では「糖尿病手帳」がありますが、眼科には「糖尿病眼手帳」があり、内科の先生と連携をとって治療していきます。


2004年グラフ旭川5月号市民の健康ガイド

「緑内障」

 

1.はじめに

 緑内障は、白内障とならんで壮年期以降の人々にみられる眼科の代表的な病気です。白内障の多くは、白髪や肌のシワと同じで、年齢とともに誰にでも起きる変化ですが、緑内障は皆に起きる変化ではなく、目の病気です。緑内障と白内障、名前はよく似ていますが、全く別の病気です。白内障につきまして、昨年の10月号で説明させていただきましたが、「もう、白内障は、こわ(は)くないしょ」ということが、おわかりいただけたかと思います。今回は緑内障についてですが、「緑内障なら失明するんでしょ、よくないしょ」とお思いの方が多くいらっしゃるようですが、近年の眼科医療の進歩で、緑内障の治療も薬物療法、レーザー療法、手術療法と選択肢が増えました。なかでも薬物点眼療法の進歩には目覚ましいものがあります。緑内障は早期に発見し、早くから治療を受ければ、失明に至らず視力を保つことができます。生涯にわたり目の健康を保つために、40歳を過ぎたらぜひ眼科で目の検診を受けることをお勧め致します。

 

2.緑内障とは

 人はどのような仕組みでものを見ているのでしょうか。ものを見る仕組みを考えながら、緑内障という病気について考えてみましょう。

 目の働きや構造はよくカメラに例えられます。黒目(角膜)のすぐ後ろに透けて見えるいわゆる茶目は虹彩といい、これは目の中に入ってくる光の量を調節する働きがあり、カメラのしぼりにあたります。この虹彩の後ろに水晶体という部分があります。水晶体はカメラのレンズと同じで、私達が見ようとするものを正しく、網膜(カメラのフィルムにあたる部分)に焦点を結ばせる働きがあります。網膜に映った像が視神経を通して脳に伝えられ、私達は、初めてものを見ることができるのです。

 緑内障は視神経がおかされて、見える範囲(視野)が狭くなる病気です。視神経は100万本以上の神経線維の束で、網膜に映った像を脳に運ぶ、いわば目と脳をつなげるケーブルの働きをしています。電気器具のケーブルが接続部分で壊れやすいように、視神経も視神経乳頭と呼ばれる眼球からの出口の部分が傷害を受けやすくなっています。視神経乳頭に傷害を与える一番の原因は、眼球内の圧力(眼圧)と考えられています。

 

3.眼圧とは

 目には一定の硬さがあります。これは、目の中で作られている水と出ていく水が丁度つり合っていて、目の硬さをほどよい状態に保っているからです。眼圧は血圧と同じ単位(mmHg)で測定されますが、正常の眼圧は1021mmHg です。眼圧が上がることによって、視神経乳頭の傷害が起こることは解明されており、以前は緑内障と言えば、眼圧が高いと考えられていました。しかし、日本人には眼圧が正常範囲に入っていても緑内障になる人が多いことが判明し、正常眼圧緑内障と呼ばれています。正常眼圧緑内障では、視神経の強度が関係しているとみられ、例え正常範囲内の眼圧でも、その患者さんにとっては負担になっていると考えられます。

 

4.緑内障の症状・検査

 視神経がおかされると徐々に消失してしまい、その部分の情報は脳に伝わらずに視野が欠けてしまいます。しかし、視神経の傷害はゆっくりと起こり、視野も少しずつ狭くなっていくため、自覚症状はほとんどなく、知らないうちに病気が進行しているのが緑内障の怖い点です。

 緑内障は、眼圧検査、眼底検査、視野検査などから診断でき、これらは眼科で一般的に行われる検査です。緑内障は自覚症状がほとんどありませんので、眼科受診した際に偶然発見されるということが最も多いのです。どの検査も、痛くありませんので安心して検査を受けて下さい。

 

5.緑内障の治療

 緑内障による視野の欠けや狭まりは、治療で元に戻すことはできません。治療の目的は、緑内障がそれ以上に進まないようにすることです。早期に発見し、早くから治療を受ければ、失明に至らず視力を保つことができます。治療は視神経乳頭に傷害を与える一番の原因である眼圧を低くコントロールするということです。

現在では緑内障治療の点眼薬だけでも10種類以上あり、非常によく眼圧を下げる点眼薬も出ています。まずは点眼薬による治療が開始されますが、病状の進行が止められない場合にはレーザー療法、手術療法が必要になる場合もあります。

 

6.さいごに 

 日本緑内障学会の調査によりますと、40歳以上の5.78%が緑内障患者であるといわれています。およそ17人に1人が緑内障ということになります。また60歳代では13人に1人、70歳以上では8人に1人が緑内障ということがわかりました。何となく目に疲れを感じ始める年代とも一致しておりますが、単なる疲れ目と自己判断せずに、自覚症状の少ない緑内障から目を守るために、是非目の検診をお勧め致します。


2003年グラフ旭川10月号市民の健康ガイド

「白内障」

 

1.はじめに

 白内障は、壮年期以降の人々に高頻度にみられる眼科の代表的な病気の一つです。白内障の多くは、白髪や肌のシワと同じで、年齢とともに誰にでも起きる変化です。私が眼科医になった15年前には、老人性白内障とよんでいましたが、老人と呼ぶには失礼に当たる年齢の方にもみられますので、現在は加齢白内障とよんでいます。また、この15年のうちに、白内障の手術方法、手術器械も大きく進歩し、患者さんの負担も減り、手術後に良質の視力が回復できるようになりました。

 

2.白内障とは

 人はどのような仕組みでものを見ているのでしょうか。ものを見る仕組みを考えながら、白内障という病気について考えてみましょう。

 目の働きや構造はよくカメラに例えられます。黒目(角膜)のすぐ後ろに透けて見えるいわゆる茶目は虹彩といい、これは目の中に入ってくる光の量を調節する働きがあり、カメラのしぼりにあたります。この虹彩の後ろに水晶体という部分があります。水晶体はカメラのレンズと同じで、私達が見ようとするものを正しく、網膜(カメラのフィルムにあたる部分)に焦点を結ばせる働きがあります。網膜に映った像が視神経を通して脳に伝えられ、私達は、初めてものを見ることができるのです。

 白内障とは、カメラのレンズにあたる水晶体が白く濁ってくる状態です。冬の寒い日に、外から家の中に入ったときに、メガネが曇って見えなくなってしまうように、目の中に曇ったレンズが入っているために、目がかすんでしまう状態が白内障です。

水晶体が濁り始めると、ものがかすんだり、二重に見えたり、まぶしく見えたりし、進行すれば視力が低下し、眼鏡での矯正ができなくなります。

3.白内障手術

 白内障になると、初期のうちには薬によってその進行を遅らせることができる場合がありますが、完全に治療することはできません。進行した白内障は濁った水晶体を手術によって取り除く方法が一般的に行われています。白内障は手術により視力を取り戻すことができる良性の病気です。検査で白内障と診断されても、患者さんが苦にならなければ、急いで手術を受ける必要はありません。いつ手術を受けるかは、「ご本人が不自由を感じたとき」だと思います。それほど安全な手術です。私が眼科医になった頃は、視力が0.3以下になってから手術を考えるという方針でしたが、現在は、患者さんそれぞれの生活状況、必要性に応じて判断すれば良いものと考えています。車の運転をしている方であれば、視力が0.7をきったら手術が必要だと思います。

 手術は、局所麻酔で行われ、痛みはありません。手術時間は白内障の程度によって様々ですが、通常1030分程度です。国内で年間70万件以上行われておりますので、1年間で旭川の住民の方全員が両眼の手術を受けている計算になります。

 最近の手術法は超音波乳化吸引術という方法が一般的で、3mmくらいの傷から超音波の力で水晶体の濁った中身だけを吸い出します。この最新技術を支える水晶体超音波乳化吸引装置は、綿密な計算が可能なコンピュータを搭載していて、超音波によって砕いた水晶体を吸収し、できた空間に水分を流し込み、眼球の形を保ちながら手術が可能な装置です。水晶体は、昔懐かしい肝油のような大きさ、形です。肝油が薄い袋に包まれていると考えてみて下さい。上の袋を破いて、濁った中身を吸い出して、残った袋の中に水晶体の屈折力を補正するための眼内レンズを挿入します。眼内レンズも、挿入する傷口を小さくするために折り畳んで入れるやわらかいものが開発されていますので、傷口が3mmのままで済み、縫合の必要がありません。

 小切開無縫合超音波乳化吸引術を行うことにより、患者さんの全身状態や手術後の通院に問題がなければ、日帰り白内障手術を受けることも出来ます。日帰り手術を受ける患者さんは、通院できる方、重篤な合併症がない方、家族の協力が得られる方などが条件となります。目の手術というと怖いイメージがありますが、白内障の手術技術、器械は進歩し、材質の良い眼内レンズも開発されていますので、安心して手術を受けて下さい。

 なお、手術直後はふつう充血があります。またしばらくは、目がゴロゴロする、目がチクチクする、涙がでる、目やにが多い、目がかすむ、などの症状が続きますが、だいたい1~2週間でなくなります。

手術により、ほぼ白内障が起きる前の見やすさを取り戻せますが、眼内レンズは水晶体のようにピントを調節する機能がないため、不便に感じることがあります。その場合は眼鏡を使用します。眼鏡は手術後1カ月ほどたって、視力が落ち着いてから作っていただいています。

 

4.さいごに

 白内障は、怖い病気ではなく、誰もがなる病気です。しかし、目のかすむのは白内障だからと安心していたら、緑内障など他の目の病気が見つかる場合もあります。40歳を超えましたら(私も最近超えましたが)、一度目の診察を受けることをお勧め致します。

 もう、白内障は、こわ(は)くないしょ?