糖尿病網膜症治療

甘くない目の話 <2005年グラフ旭川5月号市民の健康ガイドから>

 

1.はじめに

 「甘くない目の話」をさせていただきます。それは、成人の失明原因のトップになっている病気のお話です。毎年3000人以上の方が、その病気の合併症で視力を失っている「糖尿病」のお話です。糖尿病は内科の病気ですが、眼科にも大いに関係があるのです。「甘くない目の話」ですから、糖尿病の方には耳の痛い話になってしまいますが、痛い目に合わないように、お付き合い下さい。

 

2.糖尿病とは

 糖尿病はその名前から「尿に糖が出る病気」と考えられがちですが、血液に含まれる糖分(血糖値)が多い状態が続く病気です。食事に含まれる糖分は、膵臓からでるインスリンというホルモンでエネルギーに変えられますが、糖尿病では、このインスリンの量や働きが低下してしまうことによって、血糖値が高くなってしまいます。糖尿病といえば、のどが渇く、多尿になるというのが、有名な症状ですが、それらの症状は高血糖が持続した場合に出るもので、多くの糖尿病の方は無症状なのです。

 糖尿病の人は糖尿病実態調査によりますと、「糖尿病が強く疑われる人」が690万人、「糖尿病の可能性を否定できない人」の680万人を合わせると、全国に1,370万人いると推定されています。その中で糖尿病で治療を受けている人が約212万人しかいない理由も、自覚症状が出にくいためと思われます。

3.糖尿病で目が悪くなるの?

 人はどのような仕組みでものを見ているのでしょうか。ものを見る仕組みを考えながら、糖尿病の目の影響について考えてみましょう。

 目の働きや構造はよくカメラに例えられます。黒目(角膜)のすぐ後ろに透けて見えるいわゆる茶目は虹彩といい、これは目の中に入ってくる光の量を調節する働きがあり、カメラのしぼりにあたります。この虹彩の後ろに水晶体という部分があります。水晶体はカメラのレンズと同じで、私達が見ようとするものを正しく、網膜(カメラのフィルムにあたる部分)に焦点を結ばせる働きがあります。網膜に映った像が視神経を通して脳に伝えられ、私達は、初めてものを見ることができるのです。糖尿病ではカメラのフィルムにあたる網膜が冒されてきます。「糖尿病網膜症」という病気で、カメラのフィルムの感度が低くなったり、フィルム自体が破損してしまうような状態です。

 網膜には細かい血管が張りめぐらされており、画像を映すという働きのためには充分な酸素が必要です。糖尿病の血液は糖分が多く含まれているため、血管に負担がかかり、血液の流れが悪くなって、網膜に充分な栄養を運ぶことができなくなってしまうのです。

 

 4.糖尿病網膜症

 自覚症状の少ない糖尿病ですが、糖尿病網膜症も、初期には自覚症状がありません。糖尿病になってから糖尿病網膜症が出てくるには数年から十年くらいかかることがわかっています。糖尿病にかかって、すぐ目に来るわけではありませんし、血糖コントロールが良好な場合は、網膜症は出てきません。初期には自覚症状がありませんので、ここで眼科の出番です。糖尿病と診断された方は、見え方が何ともなくても眼科を受診し、眼底検査を受けていただく必要があります。糖尿病網膜症は眼底出血から始まりますが、眼底写真の検査だけでは見逃されることもあります。眼底写真は目の奥の中央部分のみしか撮せないからです。眼科で瞳をひろげる目薬をつけて、精密眼底検査を受けることをお勧めします。糖尿病と言われたら、是非眼科を受診して下さい。

 

 5.糖尿病網膜症の進行と治療

 糖尿病網膜症は、単純網膜症、増殖前網膜症、増殖網膜症の三段階で進行していきます。

 単純網膜症の段階では視力には影響がなく、血糖コントロールの改善によって治すことができます。しかし、視力に影響の出てくる増殖前、増殖網膜症の前段階ですので、定期的に眼科を受診し、網膜症が悪化していないか確認することが大切です。

 増殖前網膜症でも、視力に影響の出ていないことが多いことが、この病気が失明につながる最大の要因です。この段階でレーザー光凝固術を行うことが失明に至ることをくいとめる最良の治療です。

 

 増殖網膜症(図1)になって、目の中にすすが飛んだり、赤いカーテンがかかるなどの自覚症状が出てきますと、相当に進んで手遅れに近い状態です。治療としては、硝子体手術が必要になってきますが、その前にレーザー光凝固術が充分に行われているかどうかが、結果を左右することが多いのです。

<図1:増殖糖尿病網膜症左眼>

新生血管などの増殖変化は進行していますが、眼底の中央には異常がないので、自覚症状は出てきていません。このまま放置しますと、ある日突然見えにくくなる怖れがあります。

<図2:糖尿病眼手帳>糖尿病と言われたら、内科と眼科と両方を受診してください。


6.さいごに

 糖尿病の方は糖尿病網膜症の治療の時期を逸しないよう、自覚症状がなくても定期的な精密眼底検査を受けることが重要です。定期的に検査を受けなくてはならない点は甘くはないのですが、検査・治療を続けていれば、糖尿病が原因で失明することを防ぐことができます。糖尿病と言われたら、内科での血糖コントロールと眼科での精密眼底検査が必要です。内科では「糖尿病手帳」がありますが、眼科には「糖尿病眼手帳」(図2)があり、内科の先生と連携をとって治療していきます。